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「兄ちゃんと好い仲なんだろう?」
とある島に立ち寄り、いつもの通りに買出しに出た俺は、荷物持ちの男を指差しながらにこやかに笑う露天市場のレディーが放った一言に固まった。
賑わい活気付く市場。
笑いあう人の声・・・顔。
こんな場所は嫌いじゃない。
新鮮で安い食材を求めて歩く俺に声を掛けて来たのは、地元の野菜を売る高年齢のレディー。
「旅の兄ちゃん達!損はさせないよ、寄っていかないか!?」
見慣れぬカラフルな野菜たちに引き寄せられて立ち寄れば、芳醇な香りを湛えた果実に奇天烈な形をした瑞々しい野菜。
思わず手に取りどんな味がするのかと眺めてみる。
「おい、生なやつは明日にするんじゃないのか?」
「うるせー、ちっと待てって」
「おや?旅の兄ちゃん達、出発は明日かい?」
そんな会話から始まり、この野菜の食し方から地元料理のレシピへと話は流れる。
後ろで暇そうに欠伸をするマリモには悪いが、この時が一番幸せとばかりに話を弾ませる。
「おい!」
いい加減じれてきた剣士は、俺の腕を僅かに引っ張る。
まるで井戸端会議の片隅で遊んでいた子供が、母親の関心を引くように仕向けたその行動に良く似ていて、俺はクククと笑った。
「ちっと待てって。試しに少し買って宿で飯を作ってやる」
「……早くしろ」
振り向かずに野菜を吟味している俺は、背後に立つ男の表情は見えない。だが、どんな表情をしているのかは分かる。
――― それぐらい見なくとも俺には分かる。
「兄ちゃんと好い仲なんだろう?」
「えっ!」
ニコニコと裏の無い表情で俺たちの顔を交互に見るレディー。
「ばっ!…まっまさか!!何で俺がこんなクソ剣士とっ!!」
「照れなくたって良いんだよ、お兄ちゃん」
クスクス笑うレディーにいたたまれなくなって、買った野菜を掴まずに立ち上がった俺は、かなり動転していたんだろう。
棒立ちの俺の横からズッと太い腕が出てきて、レディーが差し出した紙袋を受け取るゾロ。
「出発前にまた寄りなさいよ~。」
と、声がする。が何処か遠くに聞こえる。
気が付けば、ゾロが俺の手を握り市場を抜けるために歩いている最中だった。
男同士が真っ昼間から、お手て繋いで歩く様は目立つことこの上ない。
慌てて手を振り切り2歩3歩と後退すれば、切れ長の目が振り向き俺を捕らえた。
たぶん俺は、これでもかってほど顔が赤いだろう。麗しいレディー宜しく握られていた右手を包み込むように両手を握りこんでいる。
しばらく立ち止まり俺の様子を見ていた剣士は、正面を向くと
「……行くぞ」
と声を掛けてくる。
そして、荷物を持たない左手を腰あたりに沿わせると、ニギニギと手を開いたり閉じたりしてクイッと指先で俺を呼んだ。
――― だから…昼間っから男同士手を繋いだら浮くだろう。
「ちゃんと手繋げ。逸れるぞ」
――― てめェが先に迷うだろう!!
「早く宿探して飯喰いてー。てめェもタップリ喰うからな」
振り向く顔は、悪党もはだしで逃げ出す極悪面で……。その中に僅かな照れと優しい眼差しに俺はいつも絆される。
グイと手を強く引っ張るゾロは、俺を隣まで引き寄せると唇を耳元で囁いた。
「そんな馬鹿面で笑うな。我慢できねーだろう」
「は?」
「まぁ、笑っているてめェの方が好きだけどよ」
俺がどんな顔をしていたって言うんだろう?
で、天然に恥ずかしい事を公道で口にする非常識の剣士を睨み付けた。
「だから、てめェは、自然に笑っているのが一番なんだ。そんな可愛く睨んでも迫力もクソもねーからな」
男に向かって『可愛い』とか言うな!と怒鳴って蹴ってみるが、感覚がないのだろう、ゾロは俺の手を緩めたりしない。どこに向かうつもりなのか、俺の手を握ったままさっさと歩みを進める。剣士に引き摺られながら、唖然とした俺は後を付いていく。
だが、恥ずかしい言葉と行動に俯く俺は、怒るどころか何処か温かな感覚が胸一杯に広がって、緩む表情を止める事が出来なかった。